虐待防止の取り組み伝えて
千葉県野田市の小学4年女児が親から虐待を受けて死亡した事件は、社会に大きな衝撃を与えている。本紙は事件発生までの経緯、その後の状況を丁寧で分かりやすく報道している。
この事件では、市教委や児童相談所などの不手際が相次いで発覚。その都度、専門家による問題点の指摘が報じられている。事件の報道だけでなく、隠れた問題点を浮き彫りにすることも報道機関の重要な役割だが、本紙はそれにとどまらず、虐待防止の記事を積極的に掲載している。
2月19日の朝刊では、県警が2018年に対応した児童虐待の件数(速報値)は414件(前年比24件増)で、現在の統計を始めた12年以降、過去最悪を3年連続で更新したことを棒グラフを添えて紹介した。件数が増えた背景には、県民の虐待防止に対する意識の高まりがあるという。
同24日の朝刊では、子どもの相談や悩みを電話で受け付ける「チャイルドラインおおいた」の平井貴美子代表へのインタビューを掲載。「母親が孤立し、助けを求めることができないケースがある。社会全体で子どもを育てる意識を持つことが大切」と平井代表が指摘する通り、児童虐待の背景には、子育ての負担や貧困など、複雑な社会問題が横たわっていることが少なくない。問題の抜本的解決を図るには、社会全体による子育て支援が重要だ。
さらに、同27日の朝刊では、厚生労働省の全国調査で16年度に発生・発覚した虐待で死亡した子どもの約65%が0歳児で、実母が加害者となるケースが最も多く、妊娠期からのフォローが重要であることを伝えた。その上で、出産直後の乳児への虐待を防ぐため、県と県内18市町村などが医療機関との連携強化を確認したことを報道。このような動きを頼もしく感じた。
できれば、一時保護や児童福祉施設への入所、親権の停止・取り消し―など、虐待から児童を守るために取り得る法的手段についても紹介してほしい。法的知識を深めることは、関係者には虐待している親からの脅しなどに冷静に対応することに、虐待の発見者には、通報を後押しすることにつながるのではないか。
虐待によって児童の尊い命が失われるような事態があってはならない。本紙には、今後も虐待防止に向けてさまざまな視点から報道を展開していただきたい。
平成31年3月24日 大分合同新聞朝刊掲載