子どもの「生きる力」守る
平均的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は、日本では13・9%で、7人に1人に上る。ひとり親家庭に限ると半数を超え、先進国の中で高い水準だ。
10月16日付朝刊の「教育交差点」に首都大学東京の阿部彩教授の寄稿文が掲載された。親の経済状況により子どもの学力に格差がある問題を取り上げ、筆者らの調査では生活に困窮する世帯の小学5年が約3割、中学2年の約5割が「学校の授業が分からない」と答えたという。授業が分からないまま教室に座っているのはつらく、この状況が何年も続くと自己肯定感が低下し、逆境をはね返す「生きる力」まで失うと指摘している。
家庭の困窮や親の労働環境の変化で、朝食も問題となっている。文部科学省の本年度の全国学力・学習状況調査では、「朝食を食べない」児童生徒の各教科の正答率が、「食べる」より低い傾向にあった。
10月23日付朝刊に近年、注目されている小学校で朝食を提供する取り組みが紹介された。大阪市立西淡路小で週3回開かれている「朝ごはんやさん」は、地域ボランティアの熱意が学校に伝わり、市の補助金、フードバンクの協力などで支えられる先進例という。遅刻が減少し、授業で積極的な発言が増え、学年を超えたコミュニケーションが生まれるなど成果もあり、「地域のおばちゃんと過ごす時間が貴重。おなかも気持ちも満腹」という児童の言葉に心が温まる。
県内も関心は高い。10月24日付夕刊では大分市公設地方卸売市場の農産物卸売事業者らが、子ども食堂への規格外の野菜、果物の無料配布を始めたことが紹介された。子どもの将来が、生まれ育った環境で左右されてはならない。社会の温かいまなざしを絶やすことなく、きちんとした仕組みを整えることが重要だ。
全国に広がる子ども食堂の8割は、貧困家庭の子どもに限らず、乳幼児を抱える親同士が一息ついたり、1人暮らしの高齢者が子どもと触れ合ったりと、多世代が交流する拠点になっているという。
貧困家庭への理解が一層深まり、支援の輪がさらに広がることで、一人でも多くの子どもが「生きる力」を失わないで育ってくれることを願っている。
令和元年12月1日 大分合同新聞朝刊掲載