大分合同新聞 私の紙面批評「本当の“共生”実現を」清源万里子弁護士/記事PDF

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本当の“共生”実現を

 本紙は8月30日の朝刊「日本の現場―記者が行く」(毎月1回掲載)で、重い身体障害で自慰行為ができない男性のために射精介助を行う団体「ホワイトハンズ」の活動や利用者の思いなどを報じた。この記事を見て驚いた方も多かったと思われる。
 利用者は「性への気持ちをどう処理すればいいのかという葛藤を持ち続けていた」「世間では障害者の性はタブー視されていると思う。こういう気持ちを抱いている人間がいることを知ってほしい」と打ち明けた。県立広島大の横須賀俊司准教授は「恋愛や結婚、性交、出産など、健常者が経験できることは障害者も、当たり前に経験できる社会であるべきだ」と述べているが、私も同感だ。
 射精介助の利用者が給付を受けられるように介護保険法を改正するためにも、障害者の性の問題を多くの国民が認識することが必要だ。
 また、9月21日から朝刊に掲載された連載「時代に挑む 50周年を迎える太陽の家」(全6回)は、障害者と健常者の共生社会の重要性を伝えた。太陽の家の創設者である中村裕博士(故人)は、「障害者のゴールは病院や施設ではなく、仕事であり、結婚であり、それが本当の社会復帰です」と述べている。
 2015年版の障害者白書によると、身体障害者は393万7千人、知的障害者は74万1千人、精神障害者は320万1千人。人口千人当たりでは、身体障害者31人、知的障害者6人、精神障害者25人となる。「およそ国民の6%が何らかの障害を有していることになる」とされるが、“共生”を実現できている地域は多くない。
 中村博士が「一般市民と共に生きることこそ障害者の最大の望みであり、それを実現させるのが福祉」と述べたように、“共生”の実現は、社会の重要な課題である。
 障害者やその家族は、偏見や誤解を恐れ、社会から孤立しがちだ。障害者と健常者の“共生”を実現するためには、障害者やその家族を支える態勢が必要だ。
 そのために本欄で紹介したような記事が掲載される意義は大きい。私たちが、障害者やその家族が抱える不安や悩み、社会の果たす役割を正しく理解できるよう、本紙にはこれからも継続的に情報提供や問題提起を行っていただきたい。