大分合同新聞 私の紙面批評「男性の育児参加が必要」清源万里子弁護士/記事PDF

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男性の育児参加が必要

 新型コロナウイルスは女性の就労にも影響を与えている。
 8月11日付経済面の特集記事が目を引いた。堅調だった女性の就業者数は4月に減少に転じ、不安定な就労環境に置かれていることや家事・育児の偏りがあることで深刻な問題が出てきている。女性は男性に比べて非正規で働く人の割合が2倍以上。正規よりも賃金が低く、こうしたときに影響が出やすいのだ。シングルマザーなど収入減が貧困に直結する人が仕事を失うケースも多いそうだ。
 東京大大学院発達保育実践政策学センターの調査では、コロナ禍で1日の育児時間が平均5時間以上増えた割合は母親47・1%に対し、父親29・3%。仕事を休んだ割合も母親24・9%、父親5・0%と開きが顕著だった。家事・育児の負担が女性に偏っていることが再認識された形。ワンオペ育児に夫と一緒の在宅勤務が加わり、体調を崩した会社員の女性の話が出ていたが、職場や夫の理解が必要不可欠だと感じた。
 人手不足が深刻化する中で、女性の社会参画の促進が今一層、求められている。だが、現実は厳しい。原因の一つに「夫は仕事、妻は家事・育児」という意識が根強いことが挙げられる。だから、いまだに夫の負担は妻に比べて格段に少ない。
 8月11日付「論説」では、内閣府の有識者会議が公表した男女共同参画基本計画素案について、「20年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という政府目標を「20年代の可能な限り早期に」と変更したことを先送りだと批判した。指摘の通り、国が女性の登用を進めるなら、理念ではなく、効果のある具体策と、それを実行するための明確な手順と戦略を示すべきだ。
 男性の育児参加なくして女性は社会進出できない。男女が等しく家事・育児に携わる環境が整備されれば、もっと男性の育児休業の取得も進むだろう。女性も安心して出産・育児ができるようになり、少子化にも歯止めがかかる。
 コロナ禍で浮き彫りになった男女の格差。是正のため女性の社会進出を喫緊の課題とし、すぐに本気の議論を始め、男性が育児参加しやすい環境を整備してほしい。家庭内の性別による役割分担の意識を変えることも重要で、本紙に期待するところも大きい。

 

 

令和2年8月30日 大分合同新聞掲載