大分合同新聞 私の紙面批評「性犯罪厳罰化、課題伝えて」清源万里子弁護士/記事PDF

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性犯罪厳罰化、課題伝えて

 性犯罪を厳罰化する改正刑法が6月16日に国会で成立、今月13日に施行された。成立翌日の本紙朝刊は、強姦(ごうかん)罪が「強制性交等罪」と名称を変え、法定刑の下限が引き上げられたこと、「親告罪」規定がなくなり、保護者による性的暴行を罰する規定が新設されたことなどの改正内容を伝えた。併せて被害者の間に「性犯罪撲滅への第一歩」として歓迎する声と、「被害を知られたくない人の意思も尊重したい」という慎重な意見があることを紹介した。
 紙面に掲載された「改正内容は『それだけの重大犯罪』という社会的メッセージにもなっており、一歩前進」とする戒能(かいのう)民江氏(お茶の水女子大名誉教授)のコメントの通り、厳罰化は性犯罪撲滅への一歩といえる。他方、被害の事実が明るみに出ることや加害者からの報復を恐れ、刑事告訴に踏み切れない被害者がいるのも事実である。そのため、親告罪規定がなくなり、被害者の告訴がなくても罪に問えることには、なお課題があるといえる。
 この点については過去、性被害に遭った小林美佳さんの「事件後は『汚いと思われているのでは』と人の目が怖く、親しい人に打ち明けると『話してはいけない』と言われた」ことや、「『被害者に問題はなく、加害者は裁かれるべきだ』と誰もが認識すれば、被害を隠す必要もなくなる」という言葉を重く受け止めねばならない。何より社会が性犯罪を正しく認識することが重要で、性犯罪の厳罰化について、さまざまな被害者の意見を紹介した本紙の対応は適切であった。
 弁護士として被害者を支援していると、加害者が収監された結果、勝訴しても損害の回復が図れない、心身の不調について周囲の理解が得られない―など多くの課題に直面する。被害者支援条例の制定など、地方自治体が果たすべき役割は大きい。
 実父から性暴力を受けた体験を語って法改正の必要性を訴え、与党に署名を提出した元タカラジェンヌの東小雪さんをはじめ、刑法改正の背景には当事者の声を改正案に反映させようと働き掛けてきた被害者の切実な思いと活動があった。また、それを報じることでマスコミが後押しをした。
 本紙が今後も被害者支援の必要性や、さまざまな課題について情報提供と問題提起を地道に続けていくことを切に願っている。

平成29年7月16日 大分合同新聞朝刊掲載