大分合同新聞 私の紙面批評「女性の「声」を伝えて」清源万里子弁護士/記事PDF

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女性の「声」を伝えて

安倍政権は成長戦略で「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」と目標を掲げている。しかし実際は女性の登用はそれほど進んでいない。
 本紙8月15日付朝刊は、企業の管理職に占める女性の割合は6・2%にすぎないという帝国データバンクの調査結果を掲載。この問題に触れた同19日付朝刊「東西南北」では、昭和女子大学の坂東真理子学長の著書「働く女性が知っておくべきこと」(角川書店)から「90年近い女性の人生の中で、10年あるかどうかの比較的短い出産、子育ての時期を社会や家族がサポートしてこなかったから」という指摘を引用した。

この指摘は女性の登用が進まない背景に「出産・子育て」があるという問題の本質を押さえている。女性の登用には目標を掲げるだけでなく、登用が進まない背景にある社会が抱える問題の本質を理解することが必要だろう。
 ところで、8月16日付夕刊の「帝王切開に悩まないで」では、帝王切開で出産をした母親の中に、周囲の「楽をしている」「母親の自覚が芽生えない」などの言葉で悩んでいる人がいることを伝えた。
 この記事を契機に「このように悩む母親がいるなんて知らなかった」という市民の声を耳にしたことは興味深い。帝王切開は母子の命を守る必要な措置であるにもかかわらず、当事者が悩まざるを得ないほどの理解の乏しさが社会に存在していることがうかがえる。適切な選択をした本人さえもが「自然なお産ができなかった」と思い詰めるような社会は、女性が安心して出産できる社会と言えるだろうか。

出産の考え方はさまざまだが、出産する女性がどのような不安を抱え、どのように悩んでいるかを社会が理解することが必要だ。近年深刻化している「少子化問題」も出産の不安をくむと本質が見えてくる。仕事と家庭の両立には、働きながら出産・子育てができる環境の整備と、その前提となる周囲の理解と協力が何より必要だ。
 十分に理解されていない女性の不安や悩みの「生の声」が取り上げられることは、社会が抱える問題が本質から理解されることにつながると思う。「帝王切開に悩まないで」のような本質を理解する上で意義深い記事が継続的に掲載されることを期待する。